都市・交通デザイン学科

川の流れ 流木の挙動【木村一郎】

都市における身近な水の存在として川が思い浮かぶ。真っすぐな川なら、水もほぼ真っすぐに流れ、その速さは川底付近では摩擦で遅く、水面付近で最も速い。ところが、川の曲がり部の流れはちょっと複雑だ。曲がり部では外方向に向かって遠心力が作用し、その大きさは流速の二乗に比例する。このため図1のように、水面付近では大きな遠心力が、底面付近では小さな遠心力が働き、このアンバランスのために、図に示すような旋回流(渦)が断面内に発生する。この渦のことを二次流(正確には第一種二次流)と呼ぶ。二次流と呼ぶ理由は、流路方向に向かう流れを一次流(主流)とし、それに直角方法の副次的な流れという意味である。この二次流は、図1の底面付近の矢印の方向を見ればわかるように、川底の土砂を内岸側に運ぶ。このため、一般に川の曲がり部では内岸側に砂がたまり(砂州形成)、外岸側に深掘れが生じる。図2にその一例を示す。


図1 川の曲がり部における二次流の発生


図2 川の曲がり部の内岸側の砂州の形成(韓国、回龍浦、筆者撮影)

このように、川は水だけを運んでいるのでは無く、土砂、そして時には流木なども一緒に運ぶ。土砂の移動は川の地形を作るとともに、ときとして土石流や地滑りなどの災害を引き起こす。一方、流木も災害に深く関与し、例えば、図3のように出水時に流木が橋に堆積し、流れを阻害することで、氾濫を誘発する場合がある。近年、流木に係わる災害が増加傾向にあり、気候変動に伴うゲリラ豪雨の頻発などがその原因と考えられている。このため、流木災害への対応が急務だが、流木の挙動には不明な点が未だ多く、その理由の一つとして比重の多様性が挙げられる。砂粒子の比重は粒の大きさや岩質にかかわらず2.65前後の値をとるのに対し、流木は樹種や水中におかれた時間などに応じて0.7~1.1程度の幅広い値をとる。特に、比重が1をまたいで変化することは、浮上と沈降の変化を意味し、これが流木動態に大きな影響を及ぼすことは容易に想像できよう。


図3 出水時に流木が橋梁に捕捉・堆積した例[1](岩手県,小本川)


図4 川の曲がり部外岸側に設置された流木捕捉工

流木災害を減らすには、川の中の流木量を減らせばよい。これには、流木発生を抑制する方策と、河道中を流れる流木を補足除去する方策の2つが考えられる。後者の一つとして、図4のように川の曲がり部の外岸側に捕捉地を設け、ここに流木を堆積させるものがある。捕捉工を外岸側に設ける理由は、曲がり部の流木の遠心力をうまく利用して流木を誘導しようとするためであるが、これには図1の二次流の効果を加味して考える必要がある。流木の比重が1より小さい場合、流木は水面付近を移動する。図1をみると、水面付近の流れは外岸に向かうので、流木の遠心力と二次流の双方がともに流木を外岸に押しやり、外岸側の捕捉工に極めて効率的に流木を送り込める。ところが比重が1を超えると、流木は底面付近を移動し、図1の底面付近の二次流は逆に内側に向かう。すなわち、流木の遠心力と、二次流の作用という二つの逆向きの力のトレードオフが生じ、流木挙動は複雑となる。図5は、岩手県小本川における捕捉工を対象とした流木動態の数値シミュレーション例であり、流木比重が0.9, 1.0, 1.1の3通りについて、流況と流木の位置を示したものである。比重が1より大きい場合、流木が捕捉地へ進入しにくくなることがわかる。


図5 数値シミュレーションモデルによる捕捉工周辺の流木挙動の計算例(比重が異なる場合[2]

図5に示す数値シミュレーションでは、流れと流木挙動をその相互作用を考慮しながら、三次元的に解いている。流れには、先ほど述べた二次流の影響が考慮され、流木同士の衝突や、流木に働く慣性力についても考慮される。流木動態を調べるには模型実験を行うのも有効だが、水流や流木挙動を再現する数値シミュレーションモデルも手軽に利用できるようになってきた。例えば、iRICソフトウエア[3]は、日米共同で開発されてきた河川解析のフリーソフトウエアであり、計算条件設定⇒計算⇒可視化の一連の処理を直感的で使いやすいGUI上で実行できる。最近、筆者はこれに関する世界初の書籍を上梓した[4]。高校生ぐらいからを対象として平易に書いてあり、高度な専門知識は不要である。興味のある方は気軽にトライしてみていただきたい。

参考文献
[1] 加藤一夫,小笠原敏記,松林由里子,渡辺一也,三浦忠昭: 小本川の流木捕捉施設設計に関する水理模型実験による検討, 河川技術論文集,vol. 24, pp.137-142, 2018.
[2] Ichiro Kimura, Taeun Kang and Kazuo Kato: 3D–3D Computations on Submerged-Driftwood Motions in Water Flows with Large Wood Density around Driftwood Capture Facility, Water 2021, 13, 1406. https://doi.org/10.3390/w13101406, pp.1-21, 2021.5.18.
[3] iRIC web site: i-ric.org/ja, 2022.
[4] 木村一郎:iRICによる河川シミュレーション,森北出版,2021.

2022.02.24 コラム